技術資料
- 1. 従来の活性炭フィルタの
種類と性能 - 2. WACフィルタ
実用化の経緯 - 3. WACフィルタの概要
- 4. 活性炭フィルタの
特徴対比 - 5. 活性炭の形状と捕集原理
- 6. WACフィルタの捕集能力
- 7. WACフィルタの
各種捕集性能試験 - 8. 焼却・減容性
- 9. WACフィルタの用途
は じ め に
弊社は東洋紡(株)殿と東京大学殿のご協力を得て、「放射性ヨウ素ガスの捕集」 に特化した
画期的な活性炭素繊維を開発致しました。
この新素材に各種濾材加工を施して作ったフィルタをWACフィルタ( Wakaida Activated Carbon fiber filter ) と命名し、
特許を取得致しました。
また、「放射性ヨウ素捕集用活性炭フィルタ」として文部科学省(現 原子力規制庁)に認定されました。
活性炭素繊維って、“繊維に粒状活性炭の粉末を添加したり、練り込んだものでは?”と
多くの方が想像なさいますが、実は繊維自体を活性炭化したものです。
従来の“粒状活性炭”に対して“繊維状活性炭”と表現することで、ご理解頂けるものと存じます。
WACフィルタは当初の開発目標であった軽量・低吸湿性に加え、期待値をはるかに凌ぐ
超高捕集効率・長寿命・焼却減容率等の優れた性能を多数備えております。
本冊子では、これらの諸特性について、試験データを呈示しつつ詳細に解説致しております。
WACフィルタの高性能をご理解頂く一助になりますれば幸甚でございます。
是非ご高覧のうえ、ご評価頂きたく存じます。
貴施設におかれましてもWACフィルタのご採用をご検討賜りますよう、お願い申し上げます。
株式会社 ワカイダ・エンジニアリング代表取締役若井田靖夫
1.従来の活性炭フィルタの種類と性能
活性炭フィルタは、原子炉内で大量に生成された放射性ヨウ素ガスを、有事の際に施設内の捕集装置に閉じ込め、周辺環境中に放出・拡散させないことを目的に開発されました。
従来の放射性ヨウ素ガス捕集用活性炭フィルタは全て粒状活性炭を使用しております。
①トレイ型粒状活性炭製フィルタ(原子力用 & RI施設用・非焼却型)
- 椰子殻を炭化⇒破砕⇒賦活⇒薬剤添着し、通気性多孔鋼板製容器に充填しています。活性炭の層厚が2インチで通気抵抗が大きく、処理風量が少ないうえ大変重い製品です。
- 原子力発電所ではトレイ型粒状活性炭製フィルタ(左図)を使用しています。
2枚の平行多孔鋼板製容器に粒状活性炭を充填し、それを上下2個平行に配置し中間開口部から入ったガスが、上下の活性炭層(2インチ)を通過する構造になっています。 -
- 処理風量:
- 9.4㎥/min
- 寸法:
- 約610(w)×160(H)×700(L)mm
- 初期重量:
- 約35kg
- 終末重量:
- 約70kg
- 原子規制庁承認ヨウ素ガス透過率:
- 10%(捕集効率90%)
②波型粒状活性炭製フィルタ(RI施設用・焼却型)
- 処理風量を多くするために、ABS製並行多孔板で作った容器に粒状活性炭を充填したユニットを12個使用し、ジグザグに木枠内に組み込んだものでW型とも呼ばれています。
- 主に放射性同位元素(RI)使用施設等でヨウ素ガス捕集用に使用されております。
- 活性炭の層厚が1インチ。粒状活性炭製フィルタの中で唯一の焼却型です。
-
- 処理風量:
- 28.3㎥/min
- 寸法:
- 約610(w)×160(H)×292(L)mm
- 初期重量:
- 約40kg
- 終末重量:
- 約80㎏
- 原子規制庁承認ヨウ素ガス透過率:
- 20%(捕集効率80%)
2.WACフィルタ実用化の経緯
- 2001年10月
- 東洋紡株式会社殿と弊社間で「活性炭素繊維製フィルタ共同開発契約」を締結
- 2001年11月
- 東京大学殿と弊社間で「放射性ヨウ素捕集性能試験等の受託研究契約」を締結
- 2004年12月
- 放射性ヨウ化メチル捕集試験結果を文部科学省( 現 原子力規制庁:NRA)に提出し、
「放射性ヨウ素ガス捕集用フィルタとして使用の認可」を取得 - 2005年 3月
- (公社)日本アイソト-プ協会の試験結果により、「焼却型フィルタの認定」を取得
- 2006年10月
- (公社)原子力安全技術センタ-(原安C)による安全確認書(平成18年9月通知)における 「放射性ヨウ素取扱事業所の定期検査・定期確認に際して」に基き、製造者が推奨する「活性炭フィルタの交換時期とその根拠」となるデ-タを提出
- 2007年 4月
- 原安Cに対し、安全確認書に基づく「長寿命型WACフィルタ」に関するデータを提出
- 2008年 6月
- 米国にてASTM D-3803に準拠した性能試験で捕集効率99.999%以上を確認
- 2009年 4月
- 同上試験で多風量型フィルタの捕集効率が99.999%以上であることを確認
- 2010年 7月
- 三者(東洋紡株式会社殿・東京大学殿・弊社)共同で特許を取得特許第4549388号
3.WACフィルタの概要
構造
WAC(活性炭素繊維製)フィルタは、フェルト状の化学繊維を炭化・活性化処理して活性炭素繊維とし、更に化学反応剤TEDA(Tri Ethylene Di Amine)を添着して濾材にします。この濾材を3層(又は2層)重ねにし、炭塵飛散防止用エレクトレットフィルタ(化学繊維製不織布)で挟んで複合シートにした後、ポリエチレンコ-ティング紙(或いはアルミ箔)製スペ-サ-を介して蛇腹状に折りたたみ、木(或いはアルミ)製の枠に組み込んだものです。
特徴
活性炭素繊維( WAC:Type-K 、TEDA添着、3層 )は米国試験規格( ASTM D-3803 )に準拠した捕集効率試験において、放射性ヨウ化メチル(CH3*I )捕集効率が99.999%以上という突出した性能を有していることが確認されました。
また高湿度(95%)雰囲気中でも捕集効率は安定しており、水分を殆ど吸収せず、ウェザリング(風化)が極めて少ないことが判明し、高捕集効率が長時間持続するという特長を備えております。
この活性炭素繊維を使用して製作したWACフィルタの重量は従来の粒状活性炭製フィルタの1/3以下で、運搬や交換作業が格段に安全且つ能率良く行える様になりました。
WACフィルタは素材の99%以上が燃やしても安全な材料で作られておりますので、焼却処理が可能です。焼却後の体積は焼却前の約1/1,100以下になるため、将来の放射性廃棄物処理コストを大幅に軽減できるものと期待されております。
4.粒状活性炭フィルタとの特徴対比
特徴対比表 1 標準型WACフィルタ 対 波型粒状活性炭製フィルタ(RI設用)
比較項目 | 標準型WACフィルタ WAC-292(原子力RI施設用) |
波型粒状活性炭製フィルタ 層厚1inch(RI施設用) |
||
---|---|---|---|---|
1 | 寸 法 | mm | 610×610×292 | 610×610×292 |
2 | 容 積 | ℓ | 108.7 | 108.7 |
3 | 初 期 総 重 量 | kg | 13 | 40 |
4 | 終 末 総 重 量 | kg | 13 | 80 |
5 | 処 理 風 量 | ㎥/min | 28.0 | 28.3 |
6 | 圧力損失(初期) | Pa | 240±40 | 249以下 |
7 | 活性炭の種類 | 活性炭素繊維 | 粒状活性炭 | |
8 | 原 料 | 化学繊維 | 天然椰子殻 | |
9 | 捕集細孔半径 | nm | 0.4~1.0 | 0.4~10,000 |
10 | 濾材面積 | ㎡ | 6.0 | 1.35 |
11 | 活性炭層厚 | mm | 10.5( Type-K ×3層 ) | 25.4 |
12 | 添 着 剤 | 重量% | TEDA 10% | TEDA : 3% , K I+I2 : 2% |
13 | 活性炭重量 | kg | 6.73 | 21 |
14 | 濾材通過面速 | m/sec | 0.08 | 0.35 |
15 | 濾材通過時間 | sec. | 0.13 | 0.07 |
16 | CH3 I 捕集効率 | % | 99.999%以上 | 97.82%以上 |
17 | NRA認定透過率 | % | 0.1 | 0.2 |
18 | ウェザリング影響 | 捕集効率 | 360日後98%以上 | 120日後 98% |
19 | 推奨交換時期 | 年 | 3年( 8hr/day ) | 1年( 8hr/day ) |
20 | 外 枠 材 | 合板 | 合板 | |
21 | 濾材保持方法 | 接着剤・紙スペーサー | 樹脂製多孔板箱 | |
22 | 発 火 点 | ℃ | 421 | 487.8 |
23 | 使用後の処理 | 焼却処理可能 | 焼却処理可能 | |
24 | 焼却後の容積 | 1/1,100以下 | 1/94 | |
25 | 品質保持 | 化学繊維・常時品質が一定 | 天然素材・年々品質が異なる | |
26 | 湿度95%時の捕集効率 | % | 99.999以上( CH3 I ) | 82%以下( CH3 I ) |
27 | 吸着物の脱離 | 脱離は極少 | 脱離の発生率大 | |
28 | 濾材の変形 | 小振動で変形なし | 振動で粒が偏る。炭塵発生 | |
29 | 取扱難易度 | 運搬・取扱いが容易 | 運搬・取扱いが困難 |
特徴対比表 2 トレイ型WACフィルタ 対 トレイ型粒状活性炭製フィルタ
比較項目 | トレイ型WACフィルタ WAC-T(WAC-T-NC) |
トレイ型粒状活性炭製フィルタ 2 inch ベッド 国内某社 |
||
---|---|---|---|---|
1 | 寸 法(約) | mm | 610×700×160 | 616×700×160 |
2 | 容 積(約) | ℓ | 69.0 | 69.0 |
3 | 初 期 総 重 量 | kg | 9 | 35 |
4 | 終 末 総 重 量 | kg | 9 | 70 |
5 | 処 理 風 量 | ㎥/min | 9.5 | 9.4 |
6 | 圧力損失(初期) | Pa | 350±50 | 294 |
7 | 活性炭の種類 | 活性炭素繊維 | 粒状活性炭 | |
8 | 原 料 | 化学繊維 | 天然椰子殻 | |
9 | 捕集細孔半径 | nm | 0.4~1.0 | 0.4~10000 |
10 | 濾材面積 | ㎡ | 2.0 | 0.7 |
11 | 活性炭層厚 | mm | 10.5( Type-K ×3層 ) | 50.8 |
12 | 添 着 剤 | 重量% | TEDA : 10% | TEDA : 3% , KI+I2 : 2% |
13 | 活性炭重量 | kg | 3.33 | 19 |
14 | 濾材通過面速 | m/sec | 0.08 | 0.20 |
15 | 濾材通過時間 | sec. | 0.13 | 0.25 |
16 | CH3 I 捕集効率 | % | 99.999%以上(初期) | 99.82%(初期) |
17 | NRA認定透過率 | % | 0.1 | 0.1 |
18 | ウェザリング影響 | 捕集効率 | 360日後98%以上 | 120日後98% |
19 | 推奨交換時期 | 年 | 3年( 8hr/day ) | 1年( 8hr/day ) |
20 | 外 枠 材 | 難燃合板( NC型はアルミ ) | SS板又はSUS板 | |
21 | 濾材保持方法 | 接着剤・スペーサー | 同上製多孔板箱 | |
22 | 発 火 点 | ℃ | 421 | 487.8 |
23 | 使用後の処理 | 焼却処理可能 | 焼却不可( 保管廃棄 ) | |
24 | 焼却後の容積 | 1/300以下 | ― | |
25 | 品質保持 | 化学繊維・常時品質が一定 | 天然素材・年々品質が異なる | |
26 | 湿度95%時の捕集効率 | % | 99.999以上( CH3 I ) | 82%以下( CH3 I ) |
27 | 吸着物の脱離 | 脱離は極少 | 脱離の発生率大 | |
28 | 濾材の変形 | 小振動で変化なし | 振動で偏る。炭塵発生 | |
29 | 取扱難易度 | 運搬・取扱いが容易 | 運搬・取扱いが困難 |
特徴対比表 3 多風量型WACフィルタ 対 トレイ型粒状活性炭製フィルタ
比較項目 | 多風量型WACフィルタ WAC-292W(WAC-T-NC) |
トレイ型粒状活性炭製フィルタ 2 inch ベッド 国内某社 |
||
---|---|---|---|---|
1 | 寸 法 | mm | 610×610×292 | 616×700×160 |
2 | 容 積 | ℓ | 108.7 | 69.0 |
3 | 初 期 総 重 量 | kg | 12 | 35 |
4 | 終 末 総 重 量 | kg | 12 | 70 |
5 | 処 理 風 量 | ㎥/min | 50 | 9.4 |
6 | 圧力損失(初期) | Pa | 350±60 | 294 |
7 | 活性炭の種類 | 活性炭素繊維 | 粒状活性炭 | |
8 | 原 料 | 化学繊維 | 天然椰子殻 | |
9 | 吸着孔半径 | nm | 0.4~1.0 | 0.4~10000 |
10 | 濾材面積 | ㎡ | 6.1 | 0.7 |
11 | 活性炭層厚 | mm | 7.0( Type-K ×2層 ) | 50.8 |
12 | 添 着 剤 | 重量% | TEDA : 10% | TEDA : 3% , KI+I2 : 2% |
13 | 活性炭重量 | kg | 6.73 | 19 |
14 | 濾材通過面速 | m/sec | 0.14 | 0.20 |
15 | 濾材通過時間 | sec. | 0.05 | 0.25 |
16 | CH3I 捕集効率 | % | 99.999%以上 | 99.82%( 初期 ) |
17 | NRA認定透過率 | % | 0.1 | 0.1 |
18 | ウェザリング影響 | 360日後98%以上 | 120日後97% | |
19 | 推奨交換時期 | 年 | 3年( 8hr/day ) | 1年( 8hr/day ) |
20 | 外 枠 材 | 難燃合板( NC型はアルミ枠 ) | SS板又はSUS板 | |
21 | 濾材保持方法 | 接着剤・スペーサー | 同上製多孔板箱 | |
22 | 発 火 点 | ℃ | 421 | 487.8 |
23 | 使用後の処理 | 焼却処理可能 | 焼却不可( 保管廃棄 ) | |
24 | 焼却後の減容比 | 1/1,169( NC型は1/314 ) | ― | |
25 | 品質保持 | 化学繊維・常時品質が一定 | 天然素材・年々品質が異なる | |
26 | 湿度95%時の捕集効率 | % | 99.999%以上( CH3 I ) | 捕集効率82%( CH3 I ) |
27 | 吸着物の脱離 | 脱離は極少 | 脱離の発生率大 | |
28 | 濾材の変形 | 小振動で変化なし | 振動で偏る。炭塵発生 | |
29 | 取扱難易度 | 運搬・取扱いが容易 | 運搬・取扱いが困難 |
5.活性炭の形状と捕集原理
(1)外観
粒状活性炭原料が天然素材の椰子殻である為、産年により品質が異なる
- 粒状活性炭(4〜6mmφ)
活性炭素繊維原料が化学繊維の為、常に品質が一定
- 活性炭素繊維(10〜20μmφ)
(2)顕微鏡拡大写真
- 活性炭素繊維1,200倍(直径:~13μm)1,200倍に拡大しても表面は極めて平滑で均質な繊維状です。
マクロポアやトランジショナルポアは存在せず、放射性ヨウ素吸着に有効なミクロポアのみです。 - 粒状活性炭100倍大小さまざまな口径の孔が存在しますが、ミクロポアはマイクロポアの内部にあります。
水分を取り込みやすいマクロポアが表面に多数見えます。写真で小さな点がマクロポアです。
(3)細孔の種類
-
マクロポア
直径50~100,000nm 平均2,500nmで、吸着物質を外部から内部へ取り込む役割をしますが、放射性ヨウ素ガスは吸着せず、専ら水滴を取り込んでしまうため、むしろ吸着物質 が奥の細孔に到達することを阻害します。
-
トランジショナルポア
直径2~50nmで、主に吸着物質を奥のミクロポアまで送り込む役割をします。一部は放射性ヨウ素の吸着にも関与します。
-
ミクロポア
直径約 2nm で、その殆どが放射性ヨウ素の吸着に寄与し、捕集性能を支配しています。
-
細孔の単位重量当たりの表面積
粒状活性炭の全ポアの比表面積は 900~1,500m2/g であると言われておりますが、その大部分をマクロポアとトランジショナルポアが占めており、ミクロポアだけの内表面積は全内表面積の数%と言われております。
一方、活性炭素繊維の細孔は全てが均一なミクロポアで形成されており、比表面積は1,000~2,000 m2/g と大きく、単位重量当たり、ミクロポアの数は粒状活性炭の数百倍以上になります。
(4)ヨウ素ガス捕集原理
-
物理吸着
活性炭が空気中の臭気や水中の有害物質を除去する原理は、活性炭の内部表面にある多数の細孔の中に匂い分子や不純物を取込み、確実に捕獲するからです。
放射性ヨウ素ガスが吸着される原理も同様で、活性炭の内部にある無数のミクロポアの中に放射性ヨウ素ガスが嵌り込み、長時間捕獲された状態になります。これを物理吸着といいます。
放射性ヨウ素ガスが無機か有機かで吸着度合いは大きく異なります。無機の放射性ヨウ素ガスは物理吸着で殆ど活性炭に捕集されますが、有機の放射性ヨウ素ガスは殆ど物理吸着されません。 -
化学吸着
有機の放射性ヨウ素ガスの場合は、非放射性ヨウ素を含む化学物質を活性炭に添着することで、同位体交換反応によりミクロポア内に放射性ヨウ素が保持されます。
一方、ヨウ素を含まない化学物質を添着すると、放射性ヨウ化メチルガスは分子間引力( Van der Waals 力)によってミクロポア内に強く引き込まれた後、細孔を触媒とした化学反応で添着剤と化合し、安定化して活性炭内に保持されます。
これら化学反応で細孔内に捕集するメカニズムを化学吸着といいます。化学吸着は添着剤と反応する物質のみを選択し、反応は不可逆的です。
6.WACフィルタの捕集能力
弊社が開発したWACフィルタは、粒状活性炭製フィルタに較べて格段に高いヨウ化メチル捕集能力を備えています。
- 吸着面積が大きい活性炭素繊維の細孔は全てが吸着に寄与するミクロポアで 、その表面積は1,000~2,000 m2 /g と言われております。 ミクロポアの数は粒状活性炭の200倍以上になります。
- 通風面積が大きいWACフィルタの濾材は薄くて(1層当たり3.5mmt)弾力性が有るため、蛇腹折りにして通風面積(濾材面積)の大きなフィルタを作れます。その結果、吸着物の濾材通過速度が遅くなることから、吸着反応の機会が増加して、捕集効率の上昇が期待できます。また、処理風量を大きくすることが可能です。因みに、通風面積は粒状活性炭製フィルタの4倍以上になっております。通風面積は粒状活性炭製フィルタの4倍以上になっております。
- 捕集効率が高いWACフィルタの捕集効率試験の結果は後述いたします。そこには、ヨウ化メチル捕集効率が99.999%以上であることが証明されております。また、原子力分野に適用のための捕集効率要求値を完全にクリアしております。
(1)活性炭フィルタ捕集効率試験の規格
日本には放射性物質除去用活性炭の性能規格は有りません。
米国の「原子力グレード活性炭の標準的な試験方法」ASTM D-3803が事実上の世界基準(但し初期効率のみ)となっております。
本来は粒状活性炭用の試験規格ですが、敢えてWACフィルタに適用しました。
試験条件
- Pre-equilibration Time(平衡調整準備時間)
- 960 分 (16時間)
- Equilibration Time(平衡調整時間)
- 120 分 (2時間)
- Challenge Time(試験物質投入時間)
- 60 分 (1時間)
- Elution Time(脱離分処理時間)
- 60 分 (1時間)
- Challenge Agent(試験物質)
- CH3131I (放射性ヨウ化メチル)
- CH3I Concentration(ヨウ化メチル濃度)
- 1.75mg/㎥
- Challenge Temperature(試験温度)
- 30 ℃
- Relative Humidity(相対湿度)
- 95 %
原子力産業適応のための捕集効率要求値 ( ASME AG -1 ): 97%以上
WACフィルタを ASTM D-3803 により試験した結果、放射性ヨウ化メチル捕集効率は99.999%以上であり、
上記の要求値を完璧にクリアしております。
これは、全世界の活性炭フィルタ製品の試験成績を上回っております。( 2016.4.1現在 )
- ASTM:
- American Society for Testing and Materials
- ASME:
- American Society of Mechanical Engineers
(2)粒状活性炭の捕集効率試験結果( ASTM D-3803 )
米国粒状活性炭メーカーが実施した
性能試験の結果
面速 cm/sec | 20 |
---|---|
層の厚さ | 5.08㎝( 2 inches ) |
ASTM D-3803 捕集効率 | 99.82% |
透過率 | 0.18% |
(3)WACフィルタの捕集効率試験結果( ASTM D-3803 )標準型WACフィルタ(3層)として商品化
ASTM D-3803 の趣旨に沿った試験を
米国 NUCON社に依頼
面速 cm/sec | 8 |
---|---|
層の厚さ(層数) | 1.05㎝(3層) |
ASTM D-3803 捕集効率% | 99.999%以上 |
透過率 | < 0.001% |
下記の
面速 15cm/sec及び20cm/sec
の試験においても捕集効率は99.999%以上で
あったことから多風量型WACフィルタの開発へ
- 面速 9 m/min = 15 cm/s での試験結果多風量型(50m³/min)で使用可能
- 面速 12 m/min = 20 cm/s での試験結果トレイ型でも多風量処理が可能
(4)活性炭フィルタの捕集効率試験結果
温度30℃ 、湿度95%の条件で行ったヨウ化メチル( CH3I )捕集効率試験の結果(初期効率)は次のとおりです。
(ASTM D-3803 :1989 標準)
- 粒状活性炭製フィルタ
- トレイ型2インチベッド(9.4m3/min)の効率
- 99.82%
- WACフィルタ
- 標準型WACフィルタ(28m3/min)の効率
- 99.999% 以上
- トレイ型WACフィルタ(9.5m3/min)の効率
- 99.999% 以上
- 多風量型WACフィルタ(50m3/min)の効率
- 99.999% 以上
- 多風量薄型WACフィルタ(28m3/min)の効率
- 99.999% 以上
(5)捕集能力の比較
多風量型活性炭素繊維製フィルタ( WAC-292W )1台は
処理風量で比較すると : 50m3/min ÷9.4m3/min =5.32 ⇒ 6台分
トレイ型粒状活性炭製フィルタ(2インチベッド)6台分の処理能力があります。
7.WACフィルタの各種性能試験
(1)静的捕集試験
試験方法
活性炭素繊維と粒状活性炭をヨウ素ガスを満たしたデシケ-タ内に静置して、一定時間経過後の重量変化を調べました。重量増分が捕集されたヨウ素ガスの重量であるとし、計算によりヨウ素の捕集量を確認します。
試験結果
活性炭素繊維は15日間で飽和状態に、粒状活性炭は30日間で飽和状態になりました。
活性炭素繊維の捕集反応速度は非常に速く、初期段階では粒状活性炭の3倍以上になっていました。
活性炭素繊維のヨウ素捕集量は83TBq/cm2 相当でした。
活性炭素繊維と粒状活性炭のI2静的捕集試験
デシケータ内でヨウ化メチルを静的に吸着
(Type-K:捕集材料試験)
(2)動的試験
1)破過試験
試験方法
フィルタの上流からヨウ化メチルを流し、フィルタを透過して下流に出てくるヨウ化メチルが上流側濃度の1%になったことを検出して、破過したことを確認します。
試験結果
WACフィルタ(WAC-292)が破過するまでの総ヨウ素捕集量を計算すると、882PBq になりました。
繊維状活性炭フィルタの破過試験
WACフィルタの総ヨウ素捕集量の算出
左のグラフより、捕集効率が99%に低下するまで(破過時)の総ヨウ素捕集量は、0.55mL/cm2 でした。
1モルの分子数は 6.0×1023個(アボガドロ数)で、ガスの体積は22.4 ×103mLですから、1cm2当たりに捕集された0.55mLのヨウ化メチルの分子数は6.0×1023 ×0.55/(22.4×103) =1.47×1019個になります。
従って、ヨウ素原子の個数も 1.47×1019 個となります。
次に131I の放射能を求めます。131Iの半減期は 8.02日=692,928秒であり、放射能の公式 dN/dt=λN=(0.693/T)N に代入します。
ここで、λ:壊変定数=0.693/T、T:半減期(秒)、N:原子数です。131Iの放射能=(0.693/692,928)×1.47×1019=1.47×1013Bq/cm2
WAC-292 フィルタ1台の濾材面積が 6m2=60,000cm2ですから、
1.47×1013Bq/cm2×60,000cm2=8.82×1017Bq =882PBq
即ち、WAC-292 1台の131I 総捕集量は882PBq になります。
2)脱離試験
放射性ヨウ化メチルを捕集したWACフィルタから CH3*I が脱離した量と経過時間について試験した結果は次の通りです。
試験方法
放射性ヨウ素を捕集した活性炭素製繊維製フィルタの上流から、非放射性CH3I(濃度3%)を
流量20mL/minで40sec 注入して、フィルタから CH3*I が脱離する量と経過時間を調べました。
試験結果
30分以上経過しても、その脱離率は0.5%を超えないことが分かりました。
以上のことから吸着されたCH3*I は長時間、活性炭素繊維の中に保持されることが判明しました。
活性炭素繊維製フィルタに捕集されたCH3Iの脱離試験
3)移動速度試験
試験方法
活性炭フィルタに捕集された131I が、通気時間の経過に伴って活性炭中をどの程度移動するかを調べるために、捕集後のフィルタに空気のみ通して、131Iの移動距離を測定しました。
試験結果
- WACフィルタ :
- 68.1日で30.8mg/cm2 移動。1日当たり0.45mg/cm2 移動。
- 粒状活性炭製フィルタ :
- 60日で71.78mg/cm2 移動。1日当たり1.20mg/cm2 移動。
活性炭素繊維製フィルタに捕集された131Iの活性炭内移動速度は、粒状活性炭製フィルタに比べておよそ1/4であることが判明しました。
活性炭中に吸着されたの131I の移動速度比較
g/cm2(厚さの単位)について
[例] 1cm2当たり0.8gのアルミ板の厚さは何cmか?
この場合、アルミの密度2.7g/cm3で除すと厚さが得られます。
即ち、0.8g/cm2÷ 2.7g/cm3=0.296cm になります。
この表示方法は物質に対する作用の度合いが、物質の種類に関係なく、密度で補正した厚みのファクターだけで表示できる利点が有ります。
因みに、粒状活性炭中の移動距離は、活性炭の見かけの密度を0.38g/cm3としますと、
1.20g/cm2÷0.38g/cm3=3.16cm となります。
4)捕集効率の相対湿度による影響
下表はORNL(オークリッジ国立研究所)が行った、添着粒状活性炭の放射性有機ヨウ素捕集効率が相対湿度によって、どの程度の影響を受けるかを調べた結果です。
その結果グラフにWACフィルタの試験結果をプロットしました。
添着活性炭の有機ヨウ素除去効率の相対湿度による影響
試験結果
粒状活性炭製フィルタ
相対湿度80%から除去効率が徐々に低下
相対湿度90%→除去効率95%
相対湿度95%→除去効率82%
WACフィルタ
相対湿度95%まで除去効率99.999%
以上の結果から、WACフィルタは粒状活性炭フィルタと比較して、圧倒的に湿分に強いと言えます。
5)ウェザリング特性
活性炭フィルタはヨウ素だけでなく、大気中の吸着妨害物質(多くは湿分、他にSOx、NOx等)を吸着することにより、ヨウ素吸着面積が次第に減少し、劣化していきます。
CH3I捕集効率に対する大気ウェザリングの影響
6)ウェザリング試験結果
試験方法
活性炭フィルタに毎日24時間連続で大気を通風し、ヨウ化メチルの捕集効率が98%になるまでの日数を調べました。
試験結果
粒状活性炭製フィルタと活性炭素繊維製フィルタに対し,各所で実施したウェザリング試験(室温、湿度60%程度)の結果は下記の通りです。
- 1967年
- オークリッジ国立研究所温度:常温湿度: ~50%
- 1972年
- 日本原子力研究所温度:15~25℃湿度:40~60%粒状活性炭製フィルタは、4ヶ月後に98%以下に劣化
- 東洋紡(株)
- 総合研究所(滋賀県大津市)温度:25℃湿度:~60%
- 東京大学
- アイソト-プ総合センタ-温度:常温湿度:~90%以上WACフィルタは、12ヶ月後も98%以上を維持
結論
上記試験結果より、WACフィルタは、8時間/日 通風の場合、3年間以上使用可能との結論を得ました。
このことは粒状活性炭製フィルタの3倍以上の期間有効であることを意味します。
8.焼却・減容・廃棄物発生量
(1)WACフィルタは焼却処理することで大幅に減容できます。※
焼却することよって体積は1/1,169 に!(RI協会所有の焼却炉で実証)
※ 発火温度が高い( 421℃ )ので火災時も比較的安全です。(ASTM D-4069)
- トレイ型粒状活性炭製フィルタ6台/
年×3年=18台 - 多風量型WACフィルタ1台/
3年間×3年間=1台- 焼却前 108.7L
- 焼却後 0.093L
焼却不可能 69.0 L×18台=1,242L : 焼却後 108.7L×1/1,169=0.093ℓ≒0.1L
WACフィルタ使用による放射性廃棄物の発生量は従来型の1/12,000
(2)粒状活性炭製フィルタの焼却処理状況
放射性同位元素(RI)研究施設等から回収した使用済粒状活性炭製フィルタは、2002年からの5年間で約3,000本(200L換算)がアイソト-プ協会に貯蔵されていますが、焼却処理は行われていません。
原子力発電所では焼却処理されず、各サイト内に保管されています。
- 粒状活性炭粉砕機(80μm以下に)
- 空気予熱器(プロパンガスと混合して焼却)
粒状活性炭製フィルタは枠ごと破砕できないため、HEPAフィルタと同様、外枠から打ち抜きが必要
※ 野川 古川 : チャコールフィルタの現状と今後の課題 Isotope News 2008 1月号アイソト-プ協会HP
(3)WACフィルタの焼却処理状況
- フィルタ破砕機
- 破砕中
- 破砕後(グローブボックス)
- 破砕後(1/20)
- 焼却炉へ投入(自燃式)
-
- WACフィルタは前処理なしで、
枠ごと破砕機に投入。 - 破砕後は約 1/ 20 に減容。
- 金属類(極く少量)を取り除き、
焼却炉に投入。 - 燃焼に際し助燃材は不要。
- WACフィルタは前処理なしで、
9.WACフィルタの用途
原子力発電所では次のような装置にWACフィルタの適用が考えられます。
- 格納容器空気浄化装置(BWR・PWR)
- アニュラス空気浄化系ヨウ素除去装置(PWR)
- 非常用ガス浄化装置[SG TS](BWR・PWR)
- 中央制御(操作)室非常用循環系(BWR・PWR)
- 使用済燃料プ-ル(ピット)排気フィルタ(BWR・PWR)
- S/G作業用仮設形空気浄化処理装置(PWR)
- 希ガス( Kr , Xe )ホ-ルドアップ装置(BWR・PWR)
- 定期検査時の移動式局所排気浄化装置
- 重要免震棟、オフサイトセンタ-、一時退避施設等用汚染外気浄化装置
- その他放射性ヨウ素発生場所の空気浄化
放射性同位元素(RI)使用施設の排気浄化装置等に使用できます。
- 放射性ヨウ素使用施設の排気浄化装置
- 放射性ヨウ素を大量に使用する合成実験室内の局所排気浄化装置
- 放射性ヨウ素を使用する放射線治療病室系統排気浄化装置
- PET試薬合成時に漏洩する放射性ガス(18F等)の捕集装置
- 環境放射能濃度測定用サンプリングフィルタ(空気中放射性ヨウ素)
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